中高年男性の一人暮らしは、ドキュメンタリー番組を作る最高の素材だ。素材だけで十分美味しいのに、不幸スパイスを加えて煮込めば煮込むほど、さらに美味しくなる。
そんなドキュメンタリー番組の素材候補として、私は選ばれたらしい。本サイト「行政書士×副業で猫を幸せにするブログ」を通じてNHKから取材依頼があったのだ。
話のネタとして面白そうと思いつつも、実際に面白おかしく番組で調理されるのは抵抗がある。少々悩んだ末、結局取材を受けることは断ることにした。
それから約2か月後、そのドキュメンタリー番組は放送された。テレビ画面には不幸スパイスが一切使用されず、幸せそうに生きる中高年男性の一人暮らしの姿があって……
NHKからの突然の取材依頼
まもなく50歳を迎えようとした頃、NHKのディレクターを名乗る方からブログを通じて取材依頼が届いた。「中高年男性の一人暮らしについて」というテーマで取材をさせてほしいという。
これまでにもブログを通じて案件紹介や記事作成の依頼などの問い合わせはあったが、今回はだいぶ依頼内容が異なる。もしかしたら、私自身がドキュメンタリー番組に出演するかもしれない話だ。軽はずみな返答はできない。
何より依頼を受けるには大きな問題がある。度々、ドキュメンタリー番組はやらせや過剰演出が問題になるが、私も恣意的に不幸な中高年男性として紹介されるかもしれない。個人的には多少の演出程度なら問題ないと思っているが、自分が出演するなら話は別だ。
いろいろ考えた末、テレビの玩具になることを恐れて取材は断ることにした。そしてドキュメンタリー番組に出演するかもしれない話は「中高年の一人暮らし男性について」のアンケートにだけ回答して終了となる。
ドキュメンタリー番組の視聴者は幸せな話を求めていない
テーマ音楽のサンサーラが印象的なフジテレビのドキュメンタリー番組「ノンフィクション」では、不幸な人生模様を取り上げることが多い。SNSのトレンドを見ると明らかに不幸話の放送回に視聴者が食いついているのがよくわかる。おそらく、「ノンフィクション」の視聴者は幸せな話を求めていないからだろう。
サンサーラの「♪生きて~る、生きている~」の歌声をバックに、出演者がさまざまなトラブルに巻き込まれていく。そんな不幸な出演者をみて、視聴者は「俺の人生の方がまだマシだ」と心を落ち着かせるサプリのような効果を感じるのかもしれない。
何を隠そうサラリーマン時代の私がそうだった。「ノンフィクション」の不幸な出演者をみて元気を貰っていた。ネガティブな気持ちのときに、人の不幸が勇気を与えることがある。
人の不幸を取り上げているのは「ノンフィクション」だけではない。YouTubeのドキュメンタリーテイストの動画は、さらにリアルで刺激的だ。闘病や無職生活をテーマにしているものは、動画の出演者が不幸になればなるほど再生回数は伸びて、事態が好転すると一気に視聴者は離れていく。
そのため、一部のドキュメンタリー番組に視聴者を惹きつける不幸が求められる。不幸なイメージがつき纏う、中高年男性の一人暮らしは格好のターゲットだ。たとえ本人は幸せと感じていたとしても……
中高年男性の一人暮らしは蜜の味?
人の不幸を探しているドキュメンタリー番組制作者は、中高年男性の一人暮らしは蜜の味と感じているのではないか。私に取材依頼をしたNHKのディレクターも甘い匂いに誘われたのかもしれない。そう勝手に解釈していた。
実際に中高年男性の一人暮らしが不幸と思われることは仕方ない。「部屋に自分以外誰もいない」それだけで十分に不幸を語れる。
一方で孤独を不幸と感じていない人もいる。むしろ「部屋に自分以外誰もいない幸せ」を感じるからだ。近年になって中高年男性の一人暮らしが増えているのは、そんな幸せを望む人が増えたことも理由だろう。実際に私もそんな一人。孤独ほど楽なものはない。
しかし、世間的にみれば中高年男性の一人暮らしに幸せは似合わない。不幸である方が納得する人が多い。当然、ドキュメンタリー番組で中高年男性の一人暮らしをテーマにするなら、番組の演出は不幸テイスト一択、そう思っていた。
放送内容は一人暮らしを満喫する中高年男性の幸せな生活
NHKの取材依頼を受けてから約2か月後に、中高年の一人暮らし男性をテーマにしたNHKドキュメント20min.「21世紀のざしきわらし」が放送された。私の予想は裏切られて、内容は一人暮らしを満喫する中高年男性の幸せな生活だった。意外ではあったが「なるほど」とも思った。
少しだけ番組内容を説明すると、妖怪のざしきわらしに扮したお笑いコンビ髭男爵のルイ53世山田が、出演者の50代の中高年男性二人にこれまでの人生や現在の暮らしついて話を聞くスタイルで番組は進む。
中高年男性二人の話は、私のこれまでの人生と比較して圧倒的にドラマがあった。もし私がNHKの取材を受けていたとしても、きっとボツになっていただろう。
ちなみに妖怪ざしきわらしを見たものは、幸運が訪れるという言い伝えがある。つまり、ざしきわらし役のルイ53世山田が、不幸なはずの一人暮らしの中高年男性の手助けをするために21世紀に現れたという設定だ。
不幸な中年男を紹介しようとするフラグとして男性の生涯未婚率は28%に達し、30年前から4倍以上との悲観的なデータも紹介される。
しかし、インタビューに答える中高年男性は二人とも今が幸せと答える。問題になっている結婚できない男の成れの果てとして、不幸な中高年男性を想像していたのに意外なオチが待っていた(そんなニュアンスを感じた)。
そして、ざしきわらし役のルイ53世山田は「役に立てることはないようだ……」と言って、中高年男性二人の手助けをすることなく番組は終わる。
結論:中高年男性の一人暮らしは美味しい素材である
意地悪くドキュメンタリー制作者の方の思惑を想像してみたが、中高年男性の一人暮らしが美味しい素材であることは間違いない。
そもそも私自身がそれをネタにして、自虐も交えてブログやSNSで発信をしている。中高年男性の一人暮らしは、不幸と幸福のいずれのテイストも表現できる万能の素材で、何よりも需要も大きいからだ。
今後もさらに増え続けることが予想される中高年男性の一人暮らしは、ドキュメンタリー番組の素材として使われる機会は多くなるはず。
その裏でこっそり一人暮らしの中高年男性として、SNSとブログで日常を発信していきたいと思っている。もしかしたら、私の体験談を通して同じ境遇の人たちのちょっとした悩みを解決できるかもしれない。
そのために、私自身が美味しい素材となって幸福スパイスを少々、いい感じに煮込まれていけば……結論はそんな話。
【NHKからの取材依頼の余談】
ドキュメンタリー番組に限らず、テレビ番組製作者の横暴な態度がネット上で指摘されることがありますが、NHKのディレクターの方はとても丁寧な方でした。
取材はお断りしてメールでアンケートに答えるだけのやりとりでしたが、番組制作に対する真摯な姿勢と熱意は文面から十分に伝わりました。
だからこそ出来上がった番組は、中高年男性の一人暮らしである私から見ても、納得できる仕上がりになっていたのでしょう。