公務員には資格試験を受けなくても行政書士になれる特認制度があります。しかし、この制度の仕組みを具体的に理解している行政書士受験者や公務員志望者は少ないのではないでしょうか。
私自身も行政書士試験を受ける前にその事実を知ったとき「公務員になればオマケで付いてくる資格なのか…」とガッカリした記憶があります。
しかし、公務員のすべてが特認制度によって行政書士になれるわけではありません。また、特認制度を利用して行政書士登録するには知っておくべき注意事項も存在します。
本記事では、行政書士試験が免除になる公務員の基準をお伝えするとともに、特認制度による登録手続きをわかりやすく解説します。
さらに行政書士と公務員の相性の良さや試験難易度について等、行政書士と公務員に興味を持っている人にとって気になる情報もお知らせしますので、是非最後までご覧ください。
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- 特認制度の利用要件や登録手続きについて詳しく知りたい人
- 公務員が試験免除で行政書士になれる理由を知りたい人
- 行政書士と公務員の相性や試験難易度の比較を知りたい人
行政書士に試験免除でなれる公務員とは?
公務員が試験免除で行政書士となる資格を有する根拠は、行政書士法第2条第6号に規定されている条文になります。
【資格】
総務省「行政書士制度」より行政書士法の一部抜粋
第二条 次の各号のいずれかに該当する者は、行政書士となる資格を有する。
一 行政書士試験に合格した者
二 弁護士となる資格を有する者
三 弁理士となる資格を有する者
四 公認会計士となる資格を有する者
五 税理士となる資格を有する者
六 国又は地方公共団体の公務員として行政事務を担当した期間及び特定独立行政法人又は特定地方独立行政法人の役員又は職員として行政事務に相当する事務を担当した期間が通算して20年以上(学校教育法による高等学校を卒業した者にあっては17年以上)になる者
上記の第2条第6号の規定内容のポイントは、国または地方公共団体の行政事務担当(行政職)の公務員で、下記の学歴に応じた勤務年数が必要になることです。
- 高校卒業以上の人は、行政事務を担当した期間が通算17年以上
- 中学卒業の人は、行政事務の担当期間が通算20年以上
なお、ここで公務員について知識がない人は「行政事務って何?」と思う方もいるのではないでしょうか。
補足すると公務員は事務職と技術職の2つの職種に大別されます。
事務職とは、文書作成、データ入力、電話・窓口対応等の担当で、一方、技術職は土木、建築、機械、電気・電子・情報等の専門分野に特化した担当になります。
行政書士の試験免除の資格がある行政事務担当とは事務職を指しており、多くの人がイメージする公務員のほとんどが該当します。
ただし、すべての事務職が該当する訳ではなく、特認制度を利用する場合における「行政事務」は以下のように解釈されています。
【行政事務の解釈】
1.「行政事務」とは単に行政機関の権限に属する事務のみならず、立法及び司法機関の権限に属する事務に関するものも含まれる、と広く解釈することができる。又、単なる労務、純粋の技術、単なる事務の補助等に関する事務は含まれない。2.行政事務を担当するものであるかどうかの判別は次の基準によることが適当である。
➀文書の立案作成、審査等に関する事務であること。(文書の立案作成とは必ずしも自ら作製することを要せず、広く事務執行上の企画等も含む)
➁ある程度その者の責任において事務処理をしていること。以上の2点を基準とし、この場合単に職務の一部に書類作製等が含まれているだけでは足りず、職務内容が全体として、前期の➀、➁に該当することが必要であると解される。
昭和26年9.13 地自行発行第277号各都道府県総務部長宛行政課長通知より一部抜粋
昭和26年の古い通知文ではありますが、行政書士法の第2条6号の「行政事務」を定義するために参考となるものです。
つまり、技術職以外の公務員は、高卒で17年以上、中卒で20年以上の勤務経験があれば、行政書士になれる可能性がありますが、それに加えて上記の条件を満たす必要もあります。
公務員になれば、誰でも行政書士になれるという訳ではありません。
かつては行政書士の試験科目だった行政書士法ですが、現在はなくなっています。しかし、2023年6月に総務省から発表された❝「行政書士試験の試験に関する定め」の改正に関する意見募集❞の改正案では、一般知識等科目の中に行政書士法が加えられています。
このことから、2024年度の行政書士試験から行政書士法の問題が出題される可能性が高まりました。そのため、行政書士開業を目指す人はもちろん、改正後に受験する人は行政書士法の勉強は欠かすことができません。
特認制度による行政書士登録の手続き方法
特認制度を利用して公務員が行政書士登録手続きをするには、その要件が満たされていることを証明するために事前審査を受ける必要があります。事前審査には主に以下の2つの書類が必要です。
✅行政書士資格事前調査願
- 各都道府県の行政書士会会長宛で、行政書士資格の有無について事前調査を申請する書類になります。
- 記入事項は、氏名、性別、生年月日、住所、電話番号等であらかじめ確認が必要なものは特にありません。
✅公務員職歴証明書
- 行政書士法第2条第6号に規定されている行政事務としての期間を証明する書類となります。
- 記入事項は、住所、氏名のほか、所属部署、身分階級等、役職名、職務内容、発令庁等を時系列で記入します。
- 職務内容については、出向や休職期間等も正確に記入する必要があります。記入欄に収まらない場合は、別紙として「職務の詳細」の添付が必要となります。
- 書類が複数枚になる場合は証明権者の契印(書類をまたがって押印)が必要となるので注意が必要です。
上記の必要書類を開業予定地の各都道府県の行政書士会へ提出し審査を受けます。審査期間は2~3週間で、特認制度を利用する要件が満たされていれば晴れて行政書士登録が可能となります。
なお、必要書類等については、各都道府県の行政書士会によって異なります。上記の書類のほか、補足資料等が必要な場合もありますので、詳細については各都道府県の行政書士会へ必ずお問い合わせください。
事前審査の申請方法等を確認するには、開業予定地の行政書士会だけではなく、日本行政書士会連合会や他の都道府県行政書士会のホームページの情報が役に立つことがあります。
事前審査用の必要書類の説明や記入例もあり、書類のフォーマットをダウンロードすることもできます。
公務員事前審査の案内がある主な都道府県行政書士会のホームページのリンクを貼りましたので参考にしてください。
・東京都行政書士会
・愛知県行政書士会
・大阪府行政書士会
・三重県行政書士会
・香川県行政書士会
特認制度による行政書士登録の注意点
特認制度を利用して行政書士登録をする場合には、以下の3つの注意点があります。行政書士試験に合格して登録する場合との比較を交えてお伝えします。
資格取得するまでに年数がかかる
前述したように特認制度による行政書士の資格取得をするまでには、公務員として最低でも17年以上の勤務が必要です。さらに職種は行政事務担当に限定されていることから、ハードルは決して低いとはいえません。
また、行政書士登録時には事前審査を受けなければいけないため、いざ申請をしたところ要件が満たされていない可能性もあります。
一方、行政書士試験に合格すれば、民法改正により18歳から登録することができるようになりました。特認制度を利用する権利を得られるのは、最短でも30代半ば過ぎであるため、少しでも早く行政書士開業を目指すのであれば、特任制度の利用はおすすめできません。
行政書士試験の勉強をしていない
特認制度を利用して行政書士登録をする場合は、基本的に行政書士試験の勉強をすることはありません。
行政書士試験は実務に直結する内容ではなく、行政書士として仕事をする能力が備わっているかを試す適性試験ともいわれています。また、公務員試験や職務経験では得られない知識を行政書士試験の勉強で得られることもあります。
行政書士開業を目指すのであれば、特任制度を利用するにしても行政書士試験に合格するレベルの知識を身に付けておく必要はあるでしょう。
公務員在職中に行政書士開業はできない
公務員が行政書士登録をする場合、特認制度の利用、試験合格のいずれにしても在職中に開業することはできません。
世間の副業に関する意識も高まりつつある中で、一定の基準を設けて副業を認める民間企業は増えてきています。その結果、「週末行政書士」などと言われる休日に副業として行政書士をする新たな働き方も生まれています。
しかし、兼業禁止規定のある公務員は、副業として行政書士をすることは認められていません。行政書士で開業したいのなら、そもそも公務員を続けることは諦める必要があります。
行政書士と公務員は相性が良い
行政書士と公務員は相性の良い資格です。これは特任制度により公務員が行政書士試験を免除される理由の1つでしょう。
行政書士試験と公務員試験は、以下の試験科目が共通しています。
- 法令等科目…「憲法」「民法」「行政法」「商法」
- 一般知識等科目…「政治・経済・社会」「文章理解」
共通していないのは、法令等科目では「基礎法学」、一般知識等科目では「情報通信・通個人情報保護」の計2科目しかありません。そのため、公務員試験の勉強をしていれば、行政書士試験にもスムーズに対応できます。
また、行政書士の主な業務である「許認可申請」は、官公庁と密接な関係があります。官公庁の内部を知る公務員が行政書士として独立開業する際に大きな強みになります。
具体的にいえば、行政書士が作成した書類は、官公庁の職員が書類の受理を判断し、許認可の決定を下します。提出側と受理側の両方の事情を知っている公務員経験のある行政書士は、仕事面においても優位に働きます。
以上のように行政書士と公務員の相性が良いことを活かせれば、公務員から行政書士は効率的で効果的なステップになるはずです。
行政書士試験と公務員試験の難易度比較
公務員試験区分は国家公務員(総合職、一般職、専門職)と地方公務員(上級、中級、初級)に大別され、さらに職種や学歴等により細分化されます。そのため、行政書士試験と難易度を比較するのは、公務員試験のそれぞれの区分ごとに比較する必要があります。
国家公務員の総合職は一般的にキャリアとも呼ばれ、あらゆる試験の中でも最難関といわれる狭き門となっており、行政書士とは比較対象にはなりません。しかし、それ以外の大部分の公務員試験は、行政書士と同等かそれ以下の難易度といわれることもあります。
ただし、公務員の試験範囲は広く行政書士よりも総合的な能力が問われます。一方、行政書士試験は公務員試験よりも専門的な知識を問われるため、一律で難易度を比較するのは困難です。
いずれにしても、公務員試験に合格できるレベルであれば、行政書士試験の基礎レベルは既にクリアしています。行政書士資格に興味があるのであれば、公務員試験の知識が残っているうちに行政書士試験に受験することをおすすめします。
行政書士は難関資格といわれながらも、法律系国家資格の中では難易度が低いため、公務員だけでなく。さまざまな資格と難易度比較の対象となりやすい資格です。
その結果、ネット上では行政書士に対するネガティブな意見も散見されます。しかし、行政書士は数ある資格の中でも難易度の高い資格であることに違いありません。
下記の記事は「行政書士合格はすごいのか?」の疑問について、資格取得から20年間の私の体験談を通じて回答しています。
行政書士の特認制度に関するよくある質問【FAQ】
行政書士の特認制度を利用することについて、ネットを中心に目にすることが多い質問や疑問について回答します。
まとめ:特認制度を利用せず行政書士試験を受けることも検討しよう!
公務員は特認制度を利用することにより、行政書士に試験免除でなることが可能です。しかし、特認制度を利用して行政書士登録をするためには、公務員の行政事務担当として、高卒なら20年以上、中卒なら17年以上の経験が必要となります。
さらに、これらの経験を証明するために各都道府県行政書士会へ「行政書士資格事前調査願」「公務員職歴証明書」等の書類を提出し、事前審査を受けなければいけません。この審査は個別具体的なものであるため、特認制度の利用要件を満たしていないと判断されることもあります。
そもそも公務員として17年以上の勤務経験が必要となるのは、転職が当たり前となった今の時代を考えれば、特認制度を利用して行政書士登録するのは簡単とはいえません。
そのため、将来的に行政書士開業を目指すのであれば、特認制度の利用要件を満たす前に、行政書士試験を受けることも選択肢の1つです。行政書士試験と公務員試験は、試験科目が重複しているものが多く、公務員試験の難易度をクリアできれば、行政書士試験に合格することは決して難しいことではありません。
少しでも行政書士試験に興味のある方は、通信講座の資料請求をしてみるとよいかもしれません。無料とは思えないサンプルテキストや各種資料等を貰うことができるため、試験内容の概要を把握することができます。
公務員に合格できる能力があれば通信講座を利用する必要はありませんが、少しでも早く確実に合格したいのであれば、勉強方法の1つとしておすすめです。