行政書士合格後にステップアップとして、新たな資格を目指す人は多いのではないかと思います。そのなかでも有力な次の資格の選択肢となるのが司法書士。法律系の上位資格で同一の試験科目もあり、業務の関連性も強いことから、行政書士とのダブルライセンスとしても魅力的な資格です
私自身も行政書士合格後、次に目指した資格が司法書士でした。しかし、現実は行政書士との様々な違いを感じたことで、本格的な資格勉強をする前に挫折することになります。
行政書士に合格後、何も考えずに上位資格だからという理由だけで挑戦すると、私と同じように挫折することになりかねません。
そのようなことにならないために、この記事では行政書士を基準に司法書士との相違点と類似点について、私自身の経験談をもとに、わかりやすく解説します。
行政書士と司法書士の相違点
2つの資格の相違点について、難易度、独占業務、年収の3つの観点から比較検証します。
難易度
「行政書士に受かったから、次は司法書士合格!」と安易に考えるほど司法書士の試験は甘くありません。資格合格の難易度だけでいえば、司法書士の方が圧倒的に高い試験です。
行政書士も難関資格であることは変わりありません。しかし、例外はあるとはいえ、司法書士は行政書士のように働きながら合格を目指せるような資格ではなく、同じ難関資格ではあっても難易度には大きな差があります。
また、「法律初学者が独学で合格できるか?」という視点で考えると、行政書士は独学で挑戦するには難しい試験ではあるものの、合格できない資格ではありません。一方、司法書士は独学で合格するのは至難の業。少なくとも法律初学者が独学で合格を目指すことは無謀と言わざる負えません。
以下は行政書士と司法書士の資格難易度を合格率、勉強時間の平均値を表にしたものです(アガルート調査より抜粋)。いずれも司法書士の数値が大きく上回っており、司法書士合格の難しさがわかります。
名称 | 合格率 | 勉強時間 |
行政書士 | 8~15% | 800~1,000h |
司法書士 | 3~4% | 3,000h |
※あくまで司法書士が超難関資格なだけで、行政書士に合格することもすごいことです。
関連記事:行政書士合格はすごいのか?資格取得から20年目の真実
独占業務
行政書士、司法書士ともに独占業務が存在する資格です。代表的なものとして行政書士は許認可業務、司法書士は登記業務が挙げられます。
一方、後述するように行政書士や司法書士の業務内容には類似点も多く存在します。そのため、独占業務の違いを正しく理解していないと、他士業の業務を無資格で行う業際問題に抵触し、処分対象になることもあり十分な注意が必要です。
年収
一般的に年収は行政書士よりも司法書士の方が高いといわれています。その理由として、前述したように司法書士に合格することは非常に難しく参入障壁が高いため、必然的に年収も高くなるということです。
それぞれの平均年収は行政書士が584.4万、司法書士は945.4万(アガルート調査より抜粋)。調査基準が異なるため、あくまでも参考値となりますが、概ね行政書士よりも司法書士の年収が高いことが窺えます。
しかし、一方で資格難易度と比較した場合、コスパに見合うだけの年収差といえるかは微妙です。
行政書士と司法書士の類似点
2つの資格の類似点について、資格名称、試験科目、業務内容の3つの観点から比較検証します。
資格名称
❝書士❞という資格名称の一部が同じであることは、行政書士と司法書士がよく比較される理由の1つでもあります。実際、行政書士と司法書士を混同している人も多く、一般的には2つの資格の違いを明確に答えられる人の方が少ないでしょう。
また、過去に行政書士はカバチタレ等の有名マンガやTVドラマで取り上げられたこともあり、資格難易度とは異なり、個人的な体感上、一般的な知名度では行政書士の方が高いように感じます。資格名称が似ていることから、行政書士と司法書士を同一資格と勘違いしている人も少なくないようです。
試験科目
メインの試験科目となる憲法と民法が共通しています。そのため、行政書士からのステップアップを目指す資格として、司法書士を考える人も多い背景があります。
ちなみに他に行政書士とのダブルライセンスとして名前が上がることの多い社会保険労務士には共通科目はありません。また同じく宅地建物取引士は民法が共通科目であるものの、難易度は行政書士より下回るため、ステップアップとしての資格としてはやや物足りない印象を受けます。
なお、行政書士、司法書士それぞれの憲法や民法の試験問題は、年度によっては行政書士試験の方が難しかったと言われることがあります。前述したように資格試験自体は司法書士の方が難しい資格ですが、憲法と民法の2つの共通科目に関しては難易度に大きな差はないといえるかもしれません。
業務内容
独占業務は異なりますが、業務内容については関連性が非常に強い資格です。例として、相続関連は行政書士、司法書士ともにメインで取り扱う業務の1つでもあります。
しかしながら、遺言書や遺言分割協議書の作成等、行政書士や司法書士が共通してできる業務がある一方で、不動産登記や相続放棄等については司法書士(または弁護士)でなければ行うことができません。
行政書士にはできないが、司法書士にはできる業務をよく理解することで、資格挑戦する意味が見えてくるのではないかと思います。
関連記事:【開業準備】行政書士の専門業務を遺言書作成に決めた理由
行政書士×司法書士のダブルライセンスを目指してみた!(体験談)
ここからは、行政書士合格後に司法書士を目指したことに対する個人的な体験談をお伝えします。
行政書士×司法書士のダブルライセンスを目指した理由
行政書士資格だけでは不安だった
いざ行政書士に合格すると、それまではさほど気にならなかった「行政書士は食えない」「法律系資格では比較的取りやすい資格」等の行政書士に関するネガティブワードが気になるようになります。
ネットの普及により20年前とは比較にならないほど、現在は合格者を不安にさせる情報があふれていますが、昔も今も言われている内容自体に大きな差があるわけではありません。
そのため、私も「とても行政書士だけでは勝負できない…」と明確な根拠があるわけでもなく、上位資格を目指すことになります。
そして選択した資格が司法書士。行政書士と司法書士の難易度は、20年前と比較しても相対的に大きな変化はなく、当時の司法書士合格率は3%前後(行政書士が10%前後)。「行政書士より難しい難関資格」であり「司法書士なら食べていけるのでは?」という安易な理由が司法書士を目指すきっかけの一つとなります。
行政書士からのステップアップ資格として最適だった
さらに司法書士に挑戦する現実的かつ具体的な理由として、試験科目が重複するものが多く、ステップアップ資格として最適だったことがあります。
実は司法書士を目指す前に、わずかな期間ではありますが社会保険労務士もつまみ食いをしようとした時期があります。その理由は、上記「行政書士資格だけでは不安だった」と何一つ変わりません。
しかし、社会保険労務士の基本テキストや過去問をパラパラと見ていると、行政書士とは明らかに違う資格ということを感じました。それは難易度ではなく、試験範囲がまったく異なっていること。当たり前の話ではありますが、行政書士と社会保険労務士は試験科目で重なるものがなく、すべての科目が一からの勉強になります。
そこで次に手にしたのが司法書士の基本テキストや過去問。試験難易度では社会保険労務士よりも遥かに高い司法書士ですが、行政書士試験と民法や憲法等の主要科目が重なっていることもあり、「あれ?司法書士の問題の方が解ける!」という印象を受けたのです。
このことで、行政書士合格後に取り組みやすいステップアップ資格として、司法書士が最適であると感じたのです。しかし、これは単なる第一印象でしかなかったのですが…
私自身は行政書士に合格する前に、社会福祉士資格を取得していました。「社会福祉士から行政書士」と「行政書士から司法書士」のルートでは、同じステップアップという観点は似ていても、ダブルライセンスを目指した理由は少し異なります。福祉系資格にも興味のある方は是非下記の記事もご覧ください。
関連記事:行政書士×社会福祉士のダブルライセンスを目指した5つの理由【メリットも紹介】
司法書士は誰でも取れる資格ではない
難易度の体感差は10倍以上?
同じ書士という名称が付いていることから、一般の人には行政書士と司法書士を混同している人も少なくありません。しかし、資格難易度は前述したように大きな違いがあります。
単純に合格率や勉強時間を比較しても、いずれも行政書士の約3倍の難易度。しかし、実際に資格勉強を始めると、体感的には10倍以上の難しさを感じます。
部分的なことでいえば、過去問の中で同じ受験科目の憲法や民法で大きな差を感じないこともありますが、そう思ったら危険。トータルで考えれば論理的思考力を問われることが多く、ただの暗記では太刀打ちできません。一方で基本テキストの分量も多く暗記量にも歴然とした差があります。
行政書士が初学者でも少し勉強進めていけば、少しずつ先が見えるようになるのとは違い、勉強をすればするほど、行政書士との難易度の違いに気付くことになります。
独学や隙間時間で合格できるほど甘い資格ではない
それだけ難易度の高い資格となれば、行政書士資格のように独学や隙間時間で合格しようという甘え考えは捨てた方が無難です。
当然のことながら、行政書士のように半年から1年で合格を目指すことも論外。少なくとも2~3年以上の長期的な視野で取り組む必要があります。
司法書士に合格するために必要な時間3000時間は、行政書士に合格するために必要な時間1000時間とは異なり、法律の基礎知識を完全にマスターしてからの時間。そして、行政書士は1000時間以上勉強すれば多くの人が合格ラインに辿りつける資格である一方で、司法書士は3000時間を遥かに超える勉強量をこなしても誰もが合格できる資格ではない点が司法書士資格の挑戦から感じた印象です。
それでも司法書士を目指したい人へのアドバイス
これだけ行政書士から司法書士の資格挑戦が難しいことをお伝えしても、この記事をご覧になっていただいている以上「それでも司法書士資格に挑戦したい!」と思う方も多いのではず。そんな方に司法書士資格に挫折したからこそ言えるアドバイスがあるとしたら、次の3点になります。
- 資格取得の目的を持つこと
- 可能な限り金と時間をかけること
- 合格するまでの期日を決めること
それぞれ体験談をもとにわかりやすく解説します
資格取得の目的を持つこと
行政書士資格は、「就職に有利になりそう」とか「士業と名がついて、なんとなく凄そうな資格」等、資格を取って何をやりたいのか明確な目的がなく挑戦するひとが多いように感じます。そもそも私もその一人でした。
そのため行政書士合格後は、目的がなくなり無駄な時間を数か月過ごしました。その反省を活かすことがないまま、次の目的を司法書士合格に定め勉強を始めることになります。つまり、合格することが目的で、「司法書士を取って何をしたいのか?」をまったく考えていなかったのです。
「行政書士資格だけではできない相続関係業務にもっと深く携わりたい」「司法書士の独占業務の登記関係を専門に仕事をしたい」等、司法書士になってやりたいことを明確に定めない限り、資格取得を目的にているだけでは、超難関資格の勉強を続けるモチベーションは続きません。
可能な限り金と時間をかけること
行政書士資格は「三か月の独学で合格!」なんて言葉を目にすることがあります。しかし、それはごく一部の天才か一定水準以上の法律知識を持っている人たちです。実際は行政書士でも1年以上の勉強期間は必要で、確実に合格したいのであれば資格学校を利用する方が得策。
ましてや、司法書士の場合、独学で短期間合格を目指そうとしているのであれば論外です。可能な限り金と時間をかける覚悟が必要。通勤時間や休み時間等を利用して片手間で合格できるような資格ではありません。司法書士合格のためにすべてを捧げるくらいの気持ちが必要です。
ちなみに、私自身は司法書士も独学で目指しアルバイトがメインの生活をしていました。こんな覚悟のない状態では、早々に司法書士資格を断念するのも当然の結果でした。
関連記事:40代が行政書士試験を受けるなら独学はオススメしない3つの理由
合格するまでの期日を決めること
再三お伝えしているように、司法書士は超難関資格。人によっては、いくら努力しても合格できないことも想定しておかなければいけません。だからこそ、あらかじめ司法書士の勉強期間に期日を決めておくことが重要です。
私の場合、幸いなことに「このまま勉強を続けていても受かる保証がない!」という現実を早い段階で気づくことができましたが、むしろ能力が高い人ほど「自分なら必ず受かる!」と思い込み、資格勉強の泥沼にハマってしまう可能性があります。
諦めることで新しい世界が見えることもあります。司法書士資格で勉強したこと自体は無駄になることはありません。ネガティブに考えることなく、次の目的を見つける方がずっと生産性があります。
おわりに
今回ご紹介したように行政書士と司法書士は、相違点がある一方で類似点も多くあります。そのため、安易に行政書士合格後のステップアップとして司法書士を目指す人が多いようにも感じます。
しかし、「司法書士の資格取得をして、何をしたいのか?」が明確に定まっていない限り、司法書士の資格挑戦はオススメできません。なぜならば、行政書士だけでも自分のやりたいことは十分にできる可能性があり、また、司法書士の難易度の高さを考えれば合格できないことも想定しておかなければならないからです。
私のように行政書士合格の勢いに任せて司法書士試験に足を一歩踏み入れることがないように、今回の記事が少しでも参考になれば幸いです。