「行政書士試験に見事合格!」でも、その後のビジョンはありますか? おそらく行政書士として開業を目指している人を除き、多くの合格者は、明確に行政書士合格後の「その先」を考えている方は少ないのではないでしょうか。
その理由は、行政書士が士業のなかでも、比較的間口が広い資格であり、とりあえず資格挑戦してみようと思う方が多いということもあるでしょう。そもそも私がその一人でした。
しかし、せっかく合格をしたのなら、行政書士資格を活かすための「その先」を見据えた合格後のルートを選択することが大切です。
今回は想定される行政書士合格後の9つのルートの紹介とともに、私自身の経験をもとに、独立開業するまでのオススメルートベスト3も紹介します。
※行政書士の資格挑戦から開業までの「やることリスト」はコチラをご覧ください。
- 行政書士登録のメリット・デメリットを知りたい人
- 行政書士合格後の開業までに考えられるルートを知りたい人
- 行政書士開業までのオススメルート及びその理由を知りたい人
行政書士登録のメリット・デメリット
行政書士資格は、登録期限も更新制度もないため合格後に焦って行政書士登録をする必要はありません。過去に遡って行政書士の合格者と登録者の割合を算出すると、行政書士登録をしている人は半数以下ともいわれています。
しかし、将来的に行政書士の開業を考えている人であれば、行政書士登録は必須。あらかじめ登録するメリット・デメリットは考えておく必要があります。
下記の表は、行政書士登録に関して「業務」「情報」「費用」の3つの側面からメリット・デメリットを比較しています。
区分 | 登録のメリット | 登録のデメリット |
業務 | 行政書士を名乗ることができ、報酬を得て業務ができる。また、登録後の年数が長いことで信頼性が向上する | 独立開業した場合、原則として業務の依頼があれば断ることができない。 |
情報 | 行政書士会が主催する研修会、士業交流会等に出席することができる | 自分のペースで実務や集客等の情報収集(勉強)ができないため、じっくり開業準備ができない。 |
費用 | なし |
登録料と会費がかかる(所属する都道府県の行政書士会によって金額は異なる) |
ご覧のとおり、「費用」については、当然ながらデメリットのみ。登録料の約30万に加えて、会費として毎月6,000円程度を支払い続けなければいけないことは、行政書士試験に合格しても登録しないもっとも大きな理由でしょう。
しかし、「業務」「情報」に関する登録のメリット・デメリットについては、置かれている状況によっても意味合いの大きさが違ってきます。それだけに、行政書士合格後のルートをどのように選択するかが重要になります。
行政書士合格後に考えらる9つのルート
合格後にすぐに独立開業をする人もいれば、実務経験や人脈がないことに不安を感じて、いったん、別のルートを選択する人もいます。また、そもそも行政書士で開業は考えていない人もいるでしょう。ここでは、想定される行政書士合格後に考えられる9つのルートについて解説します。
ルート① 行政書士一本で即独立開業する
シンプルに行政書士資格一本で、いきなり開業するルートです。後述する行政書士に何かの要素をプラスすることや、士業や別業界等で経験を積むことなく、合格後すぐに開業をするということです。
いわゆる士業の世界における「即独」ともいわれ、行政書士開業者の多くの方が選択するルートでもあります。
ルート② 副業として行政書士で開業する
今もっとも注目をされている副業として行政書士で開業するルートです。行政書士の主要業務が役所とのやりとりが必要な仕事であるため、土日休みの仕事の人は一定の制約がでてしまうことや、いまだに副業を認めない会社も多いことから、すべての人が可能なルートではありません。
しかしながら、コロナによる電子申請や副業解禁の流れが、ますます広まることを考えれば、今後さらに増加が見込まれるルートです。
ルート③ ダブルライセンスで開業する
行政書士と司法書士や社会保険労務士等とのダブルライセンスで開業するルートです。行政書士は業務範囲が広い反面、業際の関係で他の士業を頼らないと業務が完結しないことがあります。
そのことから、自分自身がやりたい業務を考えたときに、行政書士だけでは不十分に感じることがあるのならば、ダブルライセンスの開業も選択肢の1つになるかもしれません。
ルート④ 行政書士事務所で働く
行政書士事務所の補助者として働くことは、行政書士の実務経験を積むために、もっとも基本的なルートになります。しかし、現実的には求人は少なく、そもそも自分自身が取り組みたい業務を扱っているとも限りません。
やっと求人を見つけて、高い倍率をクリアしたとしても、決して給与は高いとはいえず、行政書士事務所で経験を積むという以外に、あまりメリットは感じられない選択かもしれません。
ルート⑤ 他の士業事務所で働く
行政書士事務所の補助者以外で、実務経験を積む場所となれば、やはり同じ士業事務所となるでしょう。行政書士事務所と比較すれば求人数も多く、選択肢も広がるルートです。
司法書士事務所における登記等、行政書士と関連性が高い業務を他士業の事務所で知ることは、行政書士事務所での経験以上の価値があるかもしれません。
ルート⑥ 官公庁で働く
官公庁で働くとなれば公務員のイメージが強いですが、必ずしも公務員でなくても仕事はあります。特に単年契約の仕事が多いことも特徴の1つです。行政書士の実務経験を積むという訳ではありませんが、それに近い業務や雰囲気を感じることができます。
何よりも、許認可等の申請側ではなく、受付側の内情を少しでも知る機会があることは、行政書士の実務経験とは違った貴重な経験が得られるルートでもあります。
「官公庁で働く」というルートを見つけたのは、実は会社を辞めて、ハローワークで失業給付の手続きをしたときでした。
一般的には失業者が通う場所のイメージが強いハローワークですが、副業を探す場所としても活用することができます。行政書士開業後の収入が不安定な時期は、致し方なく副業をやれなければならないことがあるかもしれません。
ちなみにハローワークの求人検索端末では、官公庁の仕事のほか、行政書士や司法書士等の士業事務所の求人を見つけることもできました。
関連記事:副業をハローワークで探してみた!基本的な利用方法から職業相談対策までを徹底紹介
ルート⑦ 士業以外の業界で働く
すでに会社員として社会人経験を積んでいる人は別ですが、学生や社会人経験が浅い20・30代の人なら、士業以外の業界で働くことは、結果として行政書士の開業に活かせる多くの経験を積むことができるルートでもあります。
意図する・しないに関わらず、士業以外の業界で働くことが、将来的な行政書士開業の礎になることはよくあることです。
関連記事:【40代・未経験・コネなし】脱サラして行政書士開業を決めた8つの理由
ルート⑧ 行政書士開業以外で行政書士資格を活かす
行政書士の資格取得に関する情報を活かすルートになります。最近の副業ブームの中、ブログやYouTube等で自らの資格取得に関する体験を情報発信をすることで、大きな利益を得ている人がいます。その結果として、本業よりも稼ぐようになり、起業するようなケースもあるようです。
現実的には、行政書士の合格体験だけでは厳しいかもしれませんが、行政書士資格を活かした新しいルートとして注目してみる価値はあります。
もちろん、資格取得に関する情報だけでなく、開業前後の情報等、選択できるジャンルは経験値が多いほど幅が広がります。
今やありとあらゆる分野に出現しているYouTuberですが、行政書士も例外ではありません。
また、副業の定番ともいれるブログの世界においても、貴重な行政書士に関する情報が多く発信されています。
YouTubeやブログに興味のある方は、是非下記の記事もご覧ください。新しい行政書士のルートを見つけることができるかもしれまん。
関連記事:行政書士合格者必見!タイプ別オススメ行政書士YouTuber15選+α【イチオシ動画も紹介】
関連記事:【PV数&収益額を公開】誰でもやる気になれる!中高年がブログを始めるべき5つの理由
ルート⑨ 行政書士資格にこだわらない
行政書士に合格したからといって、行政書士とはまったく別のルートを選択することもあります。実際のところ、多くの合格者が開業ルートを選んでいる訳ではありません。
それは行政書士として生活するのは会社員以上に難しい面があると感じている行政書士合格者が多いからともいえます。
一方で、私自身の経験談として、行政書士の資格を持っている事実を職場の同僚に知られた時、「なんで、ここで働いているの?」と驚かれることがありました。
もちろん、一般的に行政書士の実情は知られていません。弁護士と同じように士業として難問資格のイメージから、そのようなことを言われたのだろうと思います。
私のかつて同僚が感じたように、決して易しい訳ではない行政書士資格を取得した以上、行政書士の資格にこだわりは持ちたくなります。
しかし、行政書士資格に合格したからといって、明確なビジョンなく安易に開業のルートを選ぶくらいであれば、行政書士資格にこだわらないことも必要です。
関連記事:「行政書士はやめとけ!」とは言わせない資格取得のメリットBEST5
独立開業までのオススメルートベスト3
現実的かつ最終的なゴールとして開業があることを前提として、これまでにご紹介した合格後のルートの中から、オススメルートベスト3を厳選してみました。
第3位 官公庁で働いて、業界の慣習を知る
ルート⑥でご紹介した「官公庁で働く」ことのオススメ理由は以下のとおりです。
- 行政書士として申請側ではなく、受付側の内情を知ることができる
- 公的機関であるため社会保険等を含め待遇面が良い
- 単年契約で仕事ができる
私自身が官公庁の受託会社では働いていた経験を踏まえ、官公庁の仕事場には、良くも悪くも慣習のようなものがあります。官公庁で仕事を進めていく過程では多くの決済が必要となりますが、必ずしも「よくできているもの」が決済を得られる訳ではありません。
「官公庁好みのもの」が決済を得られやすい傾向があります。官公庁好みというのは、上席に通しやすい型のようなものです。このあたりの感覚を得るためだけでも官公庁で働くことに価値があります。
また、待遇が良いことは当然ですが、単年契約が多いこともポイントです。経験を積むことを理由に行政書士事務所や他士業事務所で働いた場合、そのままズルズルと辞め時を逸してしまうことがあるかもしれません。独立開業することを決めているなら、一定の期日は必要です。
第2位 士業以外で働いて、士業以外の常識を知る
ルート⑦でご紹介した「士業以外の業界で働く」ことのオススメ理由は以下のとおりです。
- 一般的な社会常識を知るには一番よい
- 士業の人脈ではなく、一般的な社会の人脈ができる
- 士業以外の他の業界を知ることができる
実務を学ぶ一環として、私が伊藤塾の行政書士実務講座を受講している中で「士業には一般的な社会常識を知らない人が多い」という話を数名の講師から聞きました。たとえば、「掛かってきた電話をとらない」どころか「折り返しの電話もしない」といったようなことです。
一般的な会社では考えられないことですが、士業の世界では案外珍しくないことのようです。もちろん、あくまでも一部の方ではあるとは思いますが、特に社会人経験をせず、士業のような独自の世界に入った場合は、そのようなことが起こりえるのかもしれません。
また、前職の会社での経験を活かした行政書士業務をするケースはよくある話です。人脈を含めて、士業以外のさまざまなことを知ることは行政書士開業に多くのメリットをもたらします。
「伊藤塾の行政書士実務講座」では、実務のことはもちろん、上記のような行政書士の業界裏話を雑談のなかで聞くことができることも。
あえて今回の行政書士合格後のルートとしては外していますが、行政書士開業前はもちろん、開業後でも為になる講義を聞くことができます。
「伊藤塾の行政書士実務講座」について、詳しく知りたい方は、下記の記事をご覧ください。
関連記事:【開業準備】実務講座はコレ1択!伊藤塾「行政書士実務講座」を受講する9つのメリット
第1位 副業で行政書士を開業して、気持ちに余裕をもつ
ルート②でご紹介した「副業で行政書士を開業する」ことのオススメ理由は以下のとおりです。
- 収入が安定する
- 仕事を選択できる
- いつでも廃業もしくは会社を辞められる
なんといっても、行政書士以外に収入の柱があることは、気持の余裕が違います。その余裕によって、行政書士開業直後によくある「なんでも屋」状態のように、本来の専門外の業務を引き受けなければいけないようなことも少なくなるでしょう。
また、行政書士として軌道にのれば、会社を辞めることもできます。その逆に行政書士として上手くいかなければ、廃業する決断もしやすいはずです。
やや後ろ向きな理由かもしれませんが、本業が他にあることは、行政書士業務全般に気持ちの余裕がもてることは大きなメリットになります。
私自身が選択したのは、ルート⑦「士業以外の業界で働く」です。しかし、もし私が勤めていた会社が副業可能であれば違った選択をしていたかもしれません。
そして追記しなければいけないこととして、ルート①「行政書士一本で即開業する」はオススメできないのか?ということです。
私がこれまで見てきた開業者の意見を聞く限り、行政書士で開業するなら、遠回りせず、すぐに開業するのが一番という声が多いように思います。
そのため、今回のオススメルートベスト3については、ちょっと開業に不安を感じている「可能な限り石橋を叩いて渡りたい人向け」として、ご了承いただければと思います。
おわりに:行政書士合格後はどうする?独立開業までのオススメルートベスト3
他士業と比較しても行政書士の開業は、今回の記事で取り上げたようにさまざまなルートが存在します。
行政書士で開業するまでの経歴もさまざまで、その経歴を活かした業務をおこなっている先生も多くいらっしゃいます。それだけ、行政書士資格が多様性をもつ魅力的な資格であるともいえます。
すぐに開業する人も、さまざまな経験を積んでから将来的に開業を考えている人も、その他行政書士資格の活かし方を模索している人も、少しでも今回の記事がお役にたてば幸いです。